雲を観ず
雲を見るなら時間をかけるのが良い。 目が慣れてくるにしたがい、グレーの濃淡の味わいが増す。 同時に、ひとかたまりの雲の中に、階層や前後関係、奥行きの違いなどを見分けられるようになる。 想像をめぐらせ、その形を未開の台地にたとえるも愉快であるし、動物や物に置き換えるのも楽しい。 墨絵のように鑑賞するもいい。やがて鮮やかな色彩がとりどりに心に映されていく。 実際、灰色の階調の中に様々な色を見つけることもできる。それが夕焼け朝焼けであればなおのこと。 そしてすべては時間の移ろいをもって変化してしまう。 気に入った色も形もとどまることはない。 絶妙な象りは、細かな輪郭をもち記憶にとどめておくのもむずかしい。 雲を見ることは時間を見ることであり、消尽してゆくものを後追いする、はかない愉楽の連なりだ。