ライブハウス私感

夜です、たいていは。
知らないライブハウス のドアノブに手をかける。やや緊張して「クイッ」ひねる。知らない世界へのとばり が開く。
狭いです、それもたいていは。
もうすでに 人、椅子、音楽、言葉、酒 ごっちゃになっている。混然空間。もうゆくりなくゆとりなくそこへ、混ざりこんで座るしかない。そんな前線で<個人的境界線>は フッとかるく飛ばされる。まるっと丸腰。
そこにいるそこにある、人だったり妖怪だったり奇人だったり、構造物だったりスライムだったりが、パホーマンスがはじまる頃には、全部とぐねぐねに溶けゆく心地。口紅も、ピックも、キーホルダも、シガーケースも ゆっくりうずを巻いていく。
だれかの耳は 私の眼、あなたの歌は だれかのため息。
指で 宙をなぞるジャイブ = ほれました、よいました、たのしみましたのサイン。壁の落書きはひとりでに歩き出すし、大事にしまわれたネームカードはいつも行方不明。
地図を忘れた街の影の、底っちょにある小さな箱 から流れてくる音楽。音符のうらがわには、たいてい 気持ちこってりの詩 が書かれていて、意味は全くわからないのに、なんだかとてもよくわかる。‥‥ぶらんぶらん、箱酔い。
みんなぶらんぶらんと揺れはじめ、箱もどんどん膨(ふく)れだし、今夜も街を包みこむ、包みこむ夢を、箱が見ている。箱の中で、私が見ている。
それが私にとってのライブハウス。